国立感染症研究所

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 2020年12月現在

(IASR Vol. 42 p27-28: 2021年2月号)

 

 2019年12月に中国武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は, 短期間に世界中に広がり, 2020年3月11日には世界保健機関(WHO)によりパンデミック状態にあると発表された。2021年1月4日のJohns Hopkins大学COVID-19 Dashboardによれば, 191カ国・地域から累計患者数85,136,586人, 死亡者数1,843,342人が報告されている(本号3ページ)。

原因ウイルス

 COVID-19の原因ウイルスである新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は, コロナウイルス科βコロナウイルス属に分類され, 約30,000塩基からなる1本鎖・プラス鎖RNAゲノムを持つ。SARS-CoV-2は2002年に中国で発生した重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARS-CoV)の近縁のウイルスであるが, 感染力はより強いと推定されている(本号4ページ)。エンベロープを持ち, アルコール, 界面活性剤により不活化される。ネコ, ミンク, フェレット等にも感染する。

 検出されたSARS-CoV-2の一部は, ゲノム配列が解析され, 症例間やクラスター間の関連性の解析に用いられている(本号6ページ)。一方, ゲノムが変異したウイルスは, 感染性, 病原性, 抗原性等が変化したり, 診断用PCR法で検出されなくなる可能性がある。英国で検出されたスパイク(S)タンパク質遺伝子に変異を持つVOC-202012/01株は, 疫学データの解析から感染性が高い可能性が示唆され, 警戒されている。南アフリカ共和国, ブラジルからもSタンパク質遺伝子に変異を持つウイルスが検出されており, 性状の解析が急がれている。

臨床症状, 感染経路

 COVID-19は多様な臨床像を示す。多くの患者にみられる症状は発熱, 乾咳嗽, 倦怠感で, 喉の痛み, 下痢, 結膜炎, 頭痛, 味覚・嗅覚の消失・異常等を伴う場合もある。発症した患者の約80%は入院を要せず治癒するが, 約20%は呼吸困難に陥り酸素吸入を必要とし, うち約5%は集中治療を必要とするとされる(新型コロナウイルス感染症診療の手引き・第4.1版:https://www.mhlw.go.jp/content/000712473.pdf)。呼吸不全, 急性呼吸窮迫症候群(ARDS), 血栓塞栓症, 心臓・肝臓・腎臓の損傷を含む多臓器不全などで死亡することもある。65歳以上の高齢者や慢性閉塞性肺疾患, 慢性腎臓病, 糖尿病, 高血圧, 心血管疾患, 肥満等の基礎疾患を持つ者は重症化や死亡のリスクが高い。基礎疾患を持つ80歳以上の患者では約20%の致命率に達することもある。また, 軽症者が突然重症化し死亡する症例や(本号8ページ), COVID-19との関連はまだ明らかではないが, 倦怠感, 呼吸困難, 味覚・嗅覚障害, 脱毛などが2~3カ月間遷延する症例(いわゆるコロナ後遺症)が報告されている。一方, 感染者の20%程度は無症候者と考えられている。
COVID-19の感染経路は主に飛沫感染, 接触感染と考えられているが, エアロゾル感染も示唆されている。潜伏期間は1~14日(平均5~6日), 発症のおよそ2日前から発症後7~10日までは, 他者へ感染する可能性のある期間とされている。無症候者も発症者より弱いが感染力を持つ(本号9ページ)。

検査診断法

 COVID-19診断に用いる検査にはウイルス遺伝子検出検査(PCR法, LAMP法等)と抗原定量検査, 抗原定性検査がある。それぞれ検査法の特徴や感度, 特異度を考慮して, 適切な検体を適切な時期に採取することがより正確な検査結果を得るために必要である。いずれの検査法も完全ではないことにも留意して慎重に診断する必要がある。また, Dダイマーの上昇, CRPの上昇, LDHの上昇, フェリチンの上昇, リンパ球の低下, クレアチニンの上昇, インターフェロンλ3の上昇などが重症化のマーカーとして臨床判断に活用されている。

感染症発生動向調査, 疫学

 COVID-19は2020年2月1日より感染症法の指定感染症に分類されている。COVID-19を診断した医師は直ちに届け出なければならない(届出基準:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-shitei-01.html)。

 厚生労働省(厚労省)のオープンデータ(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html)によると, 日本では2020年1月16日に最初の患者が確認されて以来, 2021年1月3日(2020年第53週)までに検査陽性者数243,063人, 死亡者3,598人が報告されている()。2020年4月(第1波), 7~8月(第2波)に続き, 11月頃から検査陽性者が増加し始め, 医療提供体制の逼迫が深刻化してきたことから(第3波), 政府は, 2021年1月7日に関東地方の1都3県に, 1月13日には大阪・愛知・福岡などの2府5県に, 2020年4月以来2度目となる緊急事態宣言を発令した。

 厚労省の新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(速報値):2021年1月13日18時時点(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000719997.pdf)によると, 陽性者の男女比(男/女)は1.2, 年齢階級別陽性率は20代(24.0%), 次いで30代(16.1%), 40代(14.9%), 50代(13.5%), 60代(8.6%), 70代(7.3%), 80代以上(6.9%), 10代(6.3%), 10歳未満(2.4%)の順であった。各年齢階級別陽性者の致命率は80代以上(12.0%), 70代(4.5%), 60代(1.3%), 50代(0.3%), 40代(0.1%)で, 30代以下は0.0%であった。80代以上の死亡者数は全死亡者数の62.5%を占めた(小数点以下第2位四捨五入)。

ワクチン, 治療

 海外では新技術を用いたワクチン開発が進み, 少なくともmRNAワクチン2種類, ウイルスベクターワクチン1種類が複数の国で製造販売承認や緊急使用許可を取得している。米国, 英国を含む40カ国以上が接種を開始している。日本では, 2021年前半の接種開始を目指して, 予防接種法の改定や接種体制, 優先順位等の検討が行われている(本号10, 11ページ)。

 COVID-19に対して著効を示す薬剤は開発されていないが, 症状に応じてレムデシビル, デキサメタゾン, ヘパリンの使用が認められた。また, ARDS等の重症肺炎患者の治療法のノウハウは蓄積されてきており, 致命率は下がる傾向にある。

今後の課題

 2021年1月中旬現在, 緊急事態宣言下で, 厚労省は医療提供体制の確保に努めるとともに, 水際対策として, 海外で発生した変異ウイルスの国内への流入を防ぐべく, 検疫の強化に取り組んでいる。またワクチンについても, 今年度前半までに必要量を確保し, 有効性と安全性を確認しつつ接種を進めていく予定である。ワクチンが期待されるような効果を示したとしても, 流行が落ちつくまでの期間, 社会機能を維持しつつ感染者数を抑えていくためには, 以下のような方策が必要である。

 個人においては, 物理的距離の保持, マスクの着用(咳エチケット), 手指衛生の励行等の標準感染予防策や, いわゆる「3密」の回避, 不要不急の外出の自粛等の, 人との接触を減少させる行動を日常から実施することが求められる。

 また国, 自治体においては, COVID-19の発生状況等の情報を把握し, 積極的疫学調査等を適切に実施することで, 感染者の増加やクラスターの拡大を予防する必要がある(本号13, 14, 16ページ)。そのためには国, 自治体, 医療機関等で情報を共有でき, 医療機関, 保健所等の負担も少ない, 効果的なサーベイランス体制が必要となる(本号17ページ)。厚労省が導入した新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)は改良すべき点がある(本号19ページ)。地域レベルでの専門家の育成や保健所の体制強化, 重症者を重視した医療提供体制へのシフトも急務である。

 また, 国, 自治体は, 医療関係者, 関連業者, 地域住民等とコミュニケーションを深め, 緊急事態宣言等に伴う自粛要請等を発する場合にも, 協力を得られやすい関係を日頃から築いておく必要がある。  

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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