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掲載日:2022年2月17日
第72回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年2月16日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第72回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。
全国の新規感染者数(報告日別)は、今週先週比が0.90となり、直近の1週間では10万人あたり約464人と減少の動きが見られる。年代別の新規感染者数はほぼ全ての年代で減少傾向となったが、80代以上のみが微増している。
まん延防止等重点措置が適用されている36都道府県のうち、32都道府県で今週先週比が1以下となり、新規感染者数は減少傾向となった。それ以外の県においても今週先週比は低下傾向で、増加速度の鈍化が継続している。新規感染者数の減少が続く広島県では、全ての年代で減少している。しかし、多くの地域では80代以上の増加が続いていることに注意が必要。また、重点措置区域以外の秋田県、山梨県、滋賀県、鳥取県及び愛媛県でも今週先週比が1以下となった。
全国で新規感染者数は減少の動きが見られるが、療養者数、重症者数及び死亡者数の増加が継続している。
2022年2月15日
新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの開発は未曾有のスピードで進み、ファイザー社製およびモデルナ社製のmRNAワクチンは大規模なランダム化比較試験で有効性(vaccine efficacy)が90%以上とされ、アストラゼネカ社製のウイルスベクターワクチン1種類も有効性が70%程度とされた1-3。国内においても、国立感染症研究所にて、複数の医療機関の協力のもとで、発熱外来等で新型コロナウイルスの検査を受ける成人(20歳以上)を対象として、症例対照研究(test-negative design)を実施している。これまでの暫定報告においては、我が国における新型コロナワクチン導入初期に流行したB.1.1.7系統(アルファ株)およびB.1.617.2系統(デルタ株)に対して、高い有効性(vaccine effectiveness)を示すことが確認された4-5。しかし、海外の報告によると、2回接種により獲得した免疫が半年程度で減衰することが確認されており6-8、国内でも2021年12月から3回目の接種(ブースター接種)が開始となった。また、2021年11月末以降に出現し、世界各地に急速に流行拡大した感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されるB.1.1.529系統(オミクロン株)については、デルタ株を含む過去の流行株に比してワクチンの有効性が減弱している可能性が指摘されている9-10。そこで、今回は、関東において上旬にはオミクロン株が9割以上を占め、下旬にはほぼ全ての検出株がオミクロン株であったと想定される11-12、2022年1月3日以降の調査における暫定結果を報告する。
2021年12月末に、沖縄県で初めて確認された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株による感染者は米軍基地従業員であった1)。その後、県内の感染は急速に拡大し、2022年1月末現在も、多くの感染者数が県内で報告されている(第6波)。
掲載日:2022年2月10日
第71回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年2月9日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第71回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。
全国の新規感染者数(報告日別)は増加が続き、直近の1週間では10万人あたり約505人となっているが、今週先週比は1.19で増加速度の鈍化傾向が続いている。新規感染者の年代別の割合では20代が減少する一方、10歳未満や60代以上で増加している。
まん延防止等重点措置が適用されている35都道府県のうち、島根県、広島県、山口県、長崎県、熊本県、宮崎県及び沖縄県では今週先週比が1以下となり、新規感染者数は減少傾向あるいは上げ止まりとなった。また、群馬県も今週先週比が0.99と減少の兆しがある。それ以外の都道府県においても今週先週比は低下傾向で、増加速度の鈍化が継続している。新規感染者数の減少が続く沖縄県では、全ての年代で減少している。また、重点措置区域以外の秋田県、山梨県、鳥取県及び愛媛県でも今週先週比が1以下となった。
全国で新規感染者数の増加速度は鈍化しているが、療養者数、重症者数及び死亡者数の増加が継続している。
首都圏や関西圏ではほぼオミクロン株に置き換わっている。
2022年2月9日
国立感染症研究所
感染症危機管理研究センター
病原体ゲノム研究センター
国立感染症研究所および地方衛生研究所等において、2022年1月17日までに登録されたゲノム情報を分析した。全ゲノム解析により確認されたB.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)は国内2,650例(検疫を含まない)であった。
謝辞
ゲノム解読に従事いただきました全国の地方衛生研究所に感謝申し上げます。
掲載日:2022年2月3日
第70回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年2月2日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第70回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。
全国の新規感染者数(報告日別)は増加が続き、直近の1週間では10万人あたり約426人となっているが、今週先週比は1.5で鈍化傾向が続いている。新規感染者は20代以下を中心に増加しているが、年代別の割合では20代が減少する一方、10歳未満が増加している。
まん延防止等重点措置が適用されている34都道府県のうち、沖縄県、島根県及び広島県以外の31都道府県では増加が継続している。重点措置区域のほぼ全ての都道府県では今週先週比は2以下となっているが、一部の区域では今週先週比2を超えて急速な増加が継続している。一方、沖縄県では今週先週比が1を下回る水準で減少傾向が継続しているが、新規感染者について20代中心に若年層で減少する一方、70代の高齢者で増加していることに留意が必要。
重点措置区域以外の13県でも、新規感染者数は今週先週比が2を超えて急速な増加が継続している地域がある。
全国で新規感染者数の増加が継続していることに伴い、療養者数の急増や重症者数の増加が継続している。
首都圏や関西圏ではほぼオミクロン株に置き換わっているものの、引き続き、デルタ株も検出されている。
2022年1月31日
国立感染症研究所
背景・目的
国立感染症研究所では、新型コロナウイルス感染症対策に資する情報を提供することを目的として、実地疫学調査のデータを用いてSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株) の発症間隔の推定を行った。その暫定結果について報告する。
発症間隔(serial interval)は、一次感染者の発症時刻から二次感染者の発症時刻の時間間隔を意味する。一次感染者の感染から二次感染者が感染するまでの期間(世代間隔: generation time)は感染症の拡がりを特徴づける重要な指標であるが、感染イベントを実際に観測することが難しいことから、発症間隔により近似されることが多い。
オミクロン株においては、従来株と比較して潜伏期間が短縮しており(1)発症間隔についても短縮されているかについて、国内のデータを用いて検討した。
方法
国内でオミクロン株症例に対して実施された実地疫学調査により、感染源からの曝露から14日間が経過した対象集団の中で、疫学的リンクおよび感染源(一次感染者)および感染者(二次感染者)の発症日が明らかな感染ペア(N=30)について、発症日から発症日までの日数を得た。なお、この中には家族内感染と考えられるペアが9組含まれる。
発症間隔の確率密度関数を計算するために、Gamma分布、Lognormal分布、Weibull分布について検討し、赤池情報量規準(AIC)から一番当てはまりが良いと判断されたWeibull分布を計算に用いた。最尤推定法を用いて推定を行いブートストラップ法により95%信頼区間を計算した。
結果
実地的疫学調査を用いたオミクロン株症例の発症間隔の中央値は2.6日(95%信頼区間(CI):2.2-3.1)であった(図1)。発症間隔の95%は0.7日(95%CI:0.4-1.2)から4.9日(95%CI:4.1-5.8)の間であった。99%が5.4日(95%CI:4.4-6.4)以内であった。
表1.発症間隔の観察データ(N=30)
日数 |
ペア数(N=30) |
0日 |
1 |
1日 |
4 |
2日 |
9 |
3日 |
8 |
4日 |
7 |
5日 |
1 |
図1.実地疫学調査のデータを用いたオミクロン株の(A)発症間隔の分布と(B)累積分布(N=30)
発症間隔の単位は日。図Aにおいて実線は中央値、波線は左から2.5%、97.5%点を示す。グラフ内の数字はそれぞれの感染ペア数を示す。図Bにおいて薄茶色は50%、薄水色は97.5%区間を示す。0日は0.5日扱いとした。
表2.一次感染者の発症日から二次感染者が発症するまでの日毎の確率(%)
日数 |
確率(%) |
1日 |
6.03 |
2日 |
30.32 |
3日 |
63.63 |
4日 |
87.75 |
5日 |
97.53 |
6日 |
99.72 |
7日 |
99.98 |
8日 |
100 |
考察
本報告では、国内の実地疫学調査により発症日―発症日が明らかなオミクロン株症例の感染ペア(N=30)を用いて発症間隔にWeibull分布を当てはめて推定した。発症間隔の中央値は2.6日(95%CI:2.2-3.1)、95%が0.7日から4.9日の間であると推定された。発症間隔が実地疫学調査から推定された潜伏期間(中央値2.9日[95%CI 2.6-3.2])より短いことから(1)、発症前に二次感染者を発生させている可能性が示唆される。
本報告の分析には制約がある。実地疫学調査では、曝露をうけた可能性のある者すべてが含まれていない可能性があるため、発症間隔を過小評価している可能性がある。精緻な推定値を得るには切り捨てを加味したモデルと十分なサンプルサイズが必要であるが、今回は検討できていない。
注意事項
本報は迅速な情報共有を⽬的としており、内容や⾒解は知見の更新によって更新される可能性がある。
謝辞
本報告書の分析に用いたデータの収集にご協⼒いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に⼼より御礼申し上げます。
文献
1)国立感染症研究所. SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)の潜伏期間の推定:暫定報告
2022年1月26日9:00時点
国立感染症研究所
概要
WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化の可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )。
2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。
* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.ⅹ系統等が含まれる。
表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要
PANGO 系統名
|
日本 感染研 |
WHO |
EU ECDC |
UK HSA |
米国のCDC |
スパイクタンパク質の主な変異等(全てのオミクロン株で認めるわけではない) |
検出報告国・地域数 (2022年1月20日時点) |
B.1.1.529 BA.x |
VOC |
VOC |
VOC |
VOC (BA.2はVUIに指定された) |
VOC
|
BA.1/BA.2共で主流:G142D, G339D, S373P, S375F, S477N, T478K, E484A, Q493R, Q498R, N501Y, Y505H, D614G, H665Y, N679K, P681H, N764K, D796Y, Q954H, N969K
BA.1で主流: A67V, del69/70, T95I, del143/145, N211I, del212, S371L, G496S, T547K, N856K, L981F
BA.2で主流: T19I, L24S, del25/27, V213G, S371F, T376A, D405N, R408S, K417N, N440K |
171か国 |
オミクロン株について
海外での発生状況
オミクロン株による感染者(以下オミクロン株感染者)の報告数ならびに報告国数が世界的に増加し、デルタ株からオミクロン株への世界的な置き換わりの進行を認めている。一方で、2021年末頃にオミクロン株感染者が急激に増加した国々の一部では、新規感染者数が減少に転じている。オミクロン株の下位系統(BA.1、BA.2ならびにBA.3系統)に関し、現状では世界的にBA.1系統が圧倒的多数を占めていると推定されるが、いくつかの国でBA.2系統の占める割合の増加が報告されている。
日本での発生状況
国内では全ての都道府県からオミクロン株感染者が報告され、特に関東、関西、中国地方と九州の一部の地域で、市中感染の拡大による感染者数の更なる増加を認めている。多くの地域でオミクロン株への急速な置き換わりが進んでいるが、引き続き、デルタ株も検出されている。比較的感染者数が少ない地域でも流行地域からの感染の波及によるさらなる感染拡大が懸念される。
*厚生労働省報道発表資料に基づく
(注1)「検疫」には、検疫検査時に陽性だった方に加えて、宿泊施設での待機が必要な国・地域から入国後、待機中に陽性が判明し、オミクロン株と確定した場合も含む。
ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見
海外からオミクロン株流行時には、これまでの流行株と比べてより高い実効再生産数、感染者数の増加率(Growth rate)、倍加時間(Doubling time)の短縮が報告されてきたが、新たに英国からデルタ株と比較して短い発症間隔(Serial interval)や世代時間(Generation time)が報告された。
国内においては、3都県で直近2週間と1週間の倍加時間が2日前後であり、短縮した世代時間を考慮してもデルタ株よりも首都圏および関西圏で高い実効再生産数を示していることからもオミクロン株による流行拡大が続いていると考えられる。国内の積極的疫学調査によれば、ワクチン接種者と非接種者ではウイルス排泄期間に大きな差がないこと、ワクチン接種者では発症ないし診断から10日以降のウイルス排泄の可能性が低いこと、無症候病原体保有者では診断から8日以降のウイルス排泄の可能性が低いことが明らかとなった。
国内の流行初期の多くの事例が従来株やデルタ株と同様の機会(例えば、換気が不十分な屋内や飲食の機会等)で起こっていると考えられた。ただし、市中で感染拡大している地域においては、感染の場が児童施設、学校、医療・福祉施設等に広がっている。(第68回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年1月20日)
オミクロン株は、ワクチン接種や自然感染による免疫を逃避する性質が、遺伝子配列やラボでの実験、疫学データから示されている。ワクチン2回接種による発症予防効果がデルタ株と比較してオミクロン株への感染では著しく低下していることが示されている。3回目接種(ブースター接種)によりオミクロン株感染による発症予防効果が一時的に高まるが、この効果は数ヶ月で低下しているという報告もあり、長期的にどのように推移するかは不明である。入院予防効果もデルタ株と比較してオミクロン株において一定程度の低下を認めるが、発症予防効果と比較すると保たれている。入院予防効果においても3回目接種(ブースター接種)により効果が高まるという報告があるが、長期的にこの効果が持続するかは不明である。一般的にウイルス感染は、感染回復者は免疫が成立し感染しづらくなると理解されている。しかしながら、非オミクロン株に感染歴のある者のオミクロン株による再感染は、非オミクロン株と比較してオミクロン株への免疫が成立せず感染がより起こりやすい(再感染しやすい)との報告がある。一方で、細胞性免疫に関する実験による(in vitro)データが複数の研究機関から報告されており、過去の感染やワクチン接種により誘導された細胞性免疫はオミクロン株に対しても交差反応性を維持している可能性がある。さらに、モノクローナル抗体を用いた抗体医薬品についても、in vitroでの評価で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して濃度依存的効果が確認されず中和活性が著しく低下している可能性があり、その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。
重症化予防に関する効果は十分な評価が得られていないが、ワクチン接種や過去の感染により、オミクロン株感染では重症化リスクが低下することが示唆されている(詳細は次項参照)。
米国および南アフリカからデルタ株陽性例に比べて入院や重症化リスクの低下が示唆されるデータが追加された。国内における流行早期の入院例における低い酸素需要、HER-SYSにおいてオミクロン株陽性例は届け出時点でほとんどが軽症であることや肺炎割合の低下が明らかとなった。現在までの所見を総合すると、デルタ株と比較してオミクロン株では重症化しにくいと考えられる。一方で呼吸不全のある症例の73%が70歳以上に集積していること、感染者が大幅に増加することで相対的な重症化リスクの低下分が相殺される可能性には注意する必要がある。流行が急拡大し、知見が限定的な現段階において、国内でのオミクロン株の重症度や重症化リスク因子について定量的に評価することは難しく、また、重症化や死亡の転帰を確認するには時間がかかることを踏まえた知見の集積が必要である。
オミクロン株の病原性についての実験科学的な知見については、マウスおよびハムスターを用いた動物モデルでの評価について、論文報告あるいはプレプリントの更新があった。また、in vitroおよびex vivoでの評価に関するプレプリント論文も更新された。いずれも、オミクロン株では従来株に比べて肺組織への感染性と病原性が低下していることを示唆している。ただし、これらの報告はあくまで動物モデルや細胞・組織レベルでの評価であり、ヒトに対するオミクロン株病原性とは必ずしも相関しない可能性があることに注意する必要がある。
(動物モデルでの評価)
当面の推奨される対策
基本的な感染対策の推奨
参考文献
注意事項
更新履歴
第7報 2022/1/26 9:00時点
第6報 2022/1/13 9:00時点(2022/1/14, 1/20, 1/25 一部修正)
第5報 2021/12/28 9:30時点(2021/12/31 一部修正)
第4報 2021/12/15 19:00時点
第3報 2021/12/8
第2報 2021/11/28
第1報 2021/11/26
令和4年1月28日
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている (1)。
国内におけるオミクロン株の疫学的、臨床的特徴の報告は限られている(2) (3)。そのため、国内におけるオミクロン株の疫学的、臨床的特徴を迅速に把握することを目的として、検疫及び国内にて、初期に探知されたオミクロン株症例について積極的疫学調査を行った。本調査は、厚生労働省、国立感染症研究所において、国立国際医療研究センター国際感染症センター及び関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条第2項の規定に基づいて行われた。
以下の条件を全て満たすものとした。
調査対象の年齢層の中心は比較的若年層で、80例(65.6%)に2回以上のワクチン接種歴があり、基礎疾患を有していないものが多数(92例[75.4%])であった。多くの症例に発症前14日以内に海外への渡航歴があり、50例(41.0%)に発症前14日以内のCOVID-19確定例もしくは疑い例との濃厚接触歴を認めた。入院時の画像検査で肺炎像を認めた症例は少なく、入院時の血液検査所見は、概ね正常範囲内であった。入院期間中に観察された主な症状は、37.5℃以上の発熱、咳嗽、咽頭痛、鼻汁で、これまで特徴的とされていた嗅覚・味覚障害の割合は少なかった。入院期間中に酸素需要を認めた症例はなく、COVID-19への直接的な効果を期待して介入が行われた主な治療の内容は、ソトロビマブ、カシリビマブ/イムデビマブ、レムデシビルであった。重症例は認めず、死亡例も認めなかった
本調査には複数の制限がある。はじめに、本調査の対象は、積極的疫学調査協力医療機関で入院診療を行ったゲノム解析によるオミクロン株確定例の初期の患者であり、ゲノム解析で確定診断できていない疑い例は調査対象にしていない。2つ目に、調査期間中に、オミクロン株確定症例の入退院基準の変更が、知見や状況に合わせて行われている。当初、原則全例入院の上、退院基準として、核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認が必要とされていたが、2022年1月5日、ワクチン接種者においては、退院基準を従来のB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)等と同様の取扱いとすることとなった(4)。また、自宅等の療養体制が整った自治体における感染急拡大時の対応として、医師が入院の必要が無いと判断した無症状病原体保有者や軽症者については、他の新型コロナウイルス感染症患者と同様に、宿泊療養・自宅療養とすることとして差し支えなくなった(5)。さらに、1月14日、ワクチン接種の有無に関わらず、退院基準を従来のB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)等と同様の取り扱いとすることとなった(6)。これらの入退院基準の変遷を本調査では考慮していない。3つ目に、国内で早期に探知された症例は、比較的若年層であり、基礎疾患を有する者が少なかった。このため、本調査結果のみで、COVID-19の重症化リスクが高いとされる高齢者や基礎疾患を有する者における重症化リスクを評価することは困難である。なお、10例(8.2%)の60歳以上では、7例(70%)に何らかの基礎疾患があり、9例(90%)がワクチン2回以上接種しており、全例有症状であったが、9例(90%)にソトロビマブが投与され、重症化した症例は認めなかった。4つ目に、本調査は初期に探知された症例から収集された情報のため、検疫法による入院が多く含まれており、国内流行の疫学的特徴(年齢、性別、ワクチン接種歴、渡航歴、接触歴等)とは異なる可能性が高い。
本調査では、日本国内のSARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染によるCOVID-19の発症から退院までの疫学的・臨床的特徴を初めて明らかにした。
迅速な情報共有を目的とした資料であり、 内容や見解は知見の更新によって変わる可能性がある。
本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は、次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。
大阪市立総合医療センター、沖縄県立南部医療センター・こども医療センター、国際医療福祉大学成田病院、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院、国立大学法人千葉大学医学部附属病院、国立病院機構沖縄病院、国立病院機構長良医療センター、国立病院機構福岡東医療センター、市立ひらかた病院、東京都保健医療公社豊島病院、東京都立駒込病院、東京都立墨東病院、成田赤十字病院、横浜市立市民病院、りんくう総合医療センター(五十音順)
発出元
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
令和4年1月27日
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている。国内においては、オミクロン株についての知見が不十分であったため、2022年1月4日までは、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症患者(オミクロン株症例)については、隔離解除のため核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認を行ってきた。国立感染症研究所(感染研)と国立国際医療研究センター 国際感染症センターにおいて、関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条の規定に基づきオミクロン株症例の積極的疫学調査を行っている。この調査報告の第1報として、新型コロナワクチン2回接種から14日以上経過している者(以降、「ワクチン接種者」と記載)における感染性ウイルス排出期間を検討し、発症または診断10日後以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆された。この報告に基づき、2022年1月5日にワクチン接種者においては、退院基準を非オミクロン株症例と同様の取扱いとすることとなった1。また、1月13日に第2報として、新型コロナワクチン未接種者(以降、「ワクチン未接種者」と記載)のオミクロン株症例におけるウイルス排出期間を呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)を用いて比較したところ、ワクチン接種者に比べて長期化する可能性を示唆するデータは得られなかったことを報告し、この報告に基づき、1月14日ワクチン接種の有無に関わらず、退院基準・解除基準を従来のB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)等と同様の取り扱いとしている2。第2報以降に無症状病原体保有者(以降、「無症状者」と記載)の検体が集積されたことから無症状者における呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)とウイルス分離の結果を検討し報告する。
1「B.1.1.529系統(オミクロン株)の感染が確認された患者等に係る入退院及び濃厚接触者並びに公表等の取扱いについて」(令和3年11月30日付け(令和4年1月5日一部改正)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡(https://www.mhlw.go.jp/content/000876461.pdf)
2「B.1.1.529系統(オミクロン株)の感染が確認された患者等に係る入退院及び濃厚接触者並びに公表等の取扱いについて」(令和3年11月30日付け(令和4年1月14日一部改正)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡(https://www.mhlw.go.jp/content/000876461.pdf)
対象は検疫および国内で検出されたオミクロン株感染確定症例として、経過中に臨床目的もしくは研究目的で採取された(陰性を含む)すべての呼吸器検体(唾液および鼻咽頭スワブ)の残余検体について、感染研にてリアルタイムRT-PCRを実施した。採取の目安としては、SARS-CoV-2感染の初回陽性検体の検体採取日(本稿では便宜的に「診断日」と定義する)を0日目としてそこから、(1)0-1日目、(2)3-5日目、(3)6-8日目、(4)9日目以降、(5)退院時陰性検体(2回分)とした。
RNAは唾液および鼻咽頭拭い液検体200 µLからMaxwell RSC miRNA Plasma and Serum kitもしくはMagMAX Viral/Pathogen Nucleic Acid Isolation Kitを用いて抽出した。新型コロナウイルスN2領域をターゲットとしたプライマー/プローブセット(N2セット)とOne Step PrimeScript™ III RT-qPCR Mixを用いてリアルタイムRT-PCRによりウイルスRNA量(Cq値)を測定した。陰性と判定された検体についてCq値45を代入して解析した。
検体と分離用培地を混和し、VeroE6/TMPRSS2細胞に接種/培養を行い、接種後3日、5日に細胞変性効果の有無を評価した。また、細胞変性効果が見られた時点もしくは5日目に培養上清を回収し、リアルタイムRT-PCRにてSARS-CoV-2の確認試験を実施し、ウイルス分離の判定を行った。
2022年1月14日までに検体搬入された対象症例は、20例(ワクチン接種者:10例;ワクチン未接種者:10例)であった。年齢中央値28歳(四分位範囲9-45歳)(ワクチン接種者:40歳 (29-49歳);ワクチン未接種者:9歳(9-23歳))、男性12例(60%)、女性8例(40%)(ワクチン接種者:男性7例、女性3例;ワクチン未接種者:男性5例、女性5例)であった。
診断日からの期間別のウイルスRNA量(Cq値)を図に示す。Cq値は日数が経過するにつれて上昇傾向であった。また、ウイルスRNAの検出症例割合は日数が経過するにつれて減少していたが、8日目以降も検出されていた(表)。
診断日からの期間を以下に分けて分離の可否を表に示す。診断0~5日目 までは多くの症例でウイルス分離可能であったが、診断6日目以降はウイルス分離可能な症例は減少していき、診断8日目以降はウイルス分離可能な症例は認めなかった(表)。
図. 無症状者のオミクロン株症例における呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)の日数別推移
無症状者のオミクロン株症例におけるウイルスRNA量(Cq値)の診断からの日数別推移。赤線は中央値と四分位範囲を示す。
表. 無症状者のオミクロン株症例におけるウイルスRNA検出症例数および割合と分離可能症例数および割合(診断からの日数別)
診断からの日数 |
RNA検出症例数および割合n (%) |
分離可能症例数および割合 n (%) |
0-5日目 |
14/16 (87.5) |
9/16 (56.3) |
6-7日目 |
11/13 (84.6) |
2/13 (15.4) |
8-11日目 |
15/18 (83.3) |
0/18 (0) |
12日目以降 |
5/15 (33.3) |
0/15 (0) |
本報告では、無症状者のウイルス排出期間を検討した。無症状者においても呼吸器検体中のウイルスRNA量は診断後経時的に減少傾向であった。診断8日目以降もRNAは持続的に検出されたが、ウイルス分離可能な症例は診断6日目以降に減少し、診断8日目以降にウイルス分離可能な症例は認めなかった。今回の検討では解析症例数が少ないことや、無症状者においては状況によって診断されるタイミングが大きく異なることから、本結果のみで無症状者のオミクロン株症例におけるウイルス感染動態の全体像を理解することは困難である。ただし、診断6日目以降、ウイルス分離可能な症例が漸減していき、診断8日目以降にウイルス分離可能な症例が検出されなかったことから、無症状者における感染性ウイルス排出の可能性は、診断6日目から8日目にかけて大きく減少していくことが示唆された。
本報告の制限として、症例数が少ないこと、無症状者は診断される状況によって感染から診断まで時間が異なる可能性があるということ、ウイルス分離試験の結果は検体の採取方法・保管期間・保管状態等に大きく依存することから、陰性の結果が検体採取時の感染者体内に感染性ウイルスが存在しないことを必ずしも保証するものではないことなどが挙げられる。
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大阪市立総合医療センター、国際医療福祉大学成田病院、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院、国立病院機構長良医療センター、国立病院機構福岡東医療センター、市立ひらかた病院、東京都保健医療公社豊島病院、東京都立駒込病院、東京都立墨東病院、成田赤十字病院、りんくう総合医療センター(五十音順)
発出元国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター